2019年5月例会

 夏の第71回全国大会(埼玉県草加市にて、83日~5日)で報告予定のレポートを検討する例会が始まりました。5月例会で、まず3本が報告されました。

地域から見た自由民権運動

-天橋義塾と京都・乙訓の運動-

乙訓支部 羽田純一さん

身近な地域から考えたい

全国的に知られた教材を使った授業や民権運動を概観するだけの授業ではなく、もっと地域から自由民権運動を具体的に身近な運動として見る授業が、どこの地域の小学校でもできないだろうかと考えました。

京都の場合は、全国的に見れば運動が盛んであったとはいえません。私が住み勤務していた乙訓地域に自由民権運動といえる事例があるのかも定かではありません。しかし全国どこの地域でも、程度の差はあれ、自由民権の風が吹いた時期があったのではないでしょうか。

京都府の自由民権運動を図示すると、上図のようになります。

天橋義塾は丹後・但馬・丹波地方の拠点

このうち天橋義塾は比較的知られています。1875年に小室信介や沢辺正修らが中心となって創設し、社員は400名ほどで丹後・但馬・丹波地方の自由民権運動の拠点であり、中等教育機関の先がけでもありました。主な構成員は、宮津藩の士族知識人や豪農、有力商人であり、それぞれが財政的なスポンサーの役割も担っていました。次の写真は、左が天橋義塾の玄関で塾生を撮ったもの、中ほどが天橋義塾の全景、右は天橋義塾跡に建てられた碑(宮津小学校内)です。

教科書としては、『西国立志編』(スマイルズ)や『自由之理』(ミル)、『民間経済録』(福沢諭吉)、『万国公法』などが使われ、輪読や討論形式の集団学習が行われていたようです。寄宿生は、自炊生活をし、生徒会議を設けて寄宿生活の約束を議決していました。沢辺正修の講義録には、「凡そ人間の浮世に生まれ出るや、必ず天よりこれに不測の精神と自由の権利との二つを頂戴せり、故に一度人間に生まれ出ては必ずこの不測の精神を磨き立て、自由の権利を振るひ起こさずんは決して人間といはぬ事なり」という言葉も残っています。

8時間の指導計画・略案

指導計画は次のとおり8時間で立ててみました。

1時;ペリー来航と幕府の終わり

2時;文明開化と四民平等

3時;明治政府の国づくり-富国強兵

4時;広がる自由民権運動と京都

5時;天橋義塾の教育

6時;天橋義塾の民権運動

7時;乙訓にも自由民権運動はあったのか?

8時;国会開設と大日本帝国憲法の制定

 

4時~第7時の指導略案と板書例を作成してみました。

このうち第7時の授業の後半では、次のようなやり取りを考えてみました。

【発問】乙訓では自由民権運動とつながってどんな要求運動があったのか、次から3つ選びましょう。

ア.地租改正運動  イ.憲法制定要求  ウ.酒税の引き下げ  エ.物価の値上げ反対  オ.京都市内で肥(こえ)が運べる時間の延長  カ.荷車の新車両との取りかえ反対

 

S;アとイは絶対ありだね。エもありそうだな。よくわからないけど意外なところでカ!

T;正解はア、オ、カです。

S;え~アは分かるけど、オやカってそれ何?

S;肥運びの時間とか荷車の車輪についての要求も自由民権運動なの?

T;どんなことなのか、資料で調べてみましょう。

S;どれも、国会を開けとか憲法を作れとかいう要求ではないね。

S;自分たちのくらしと関係した要求や自分たちの地域の要求だね。

S;そこに立憲政党の人とかも関係している。

S;自由民権運動と地域の要求が結びついたのかな。

S;自由民権運動に参加するだけでなく、自分たちの地域の要求も運動して実現させようとした。

T;乙訓には。国会開設運動とや憲法をつくるような取り組みはなかったけど、自由民権運動の考え方は確かに広まっていましたね。

北アメリカ州学習のひと工夫

-ワークシート・教材・生徒の声-

辻健司さん(元中学校教員)

いま社会科は何をなすべきか?

社会的風潮や集団への同調圧力が強まっています。また、社会へ関心を向けたり、歴史的に考えてみようとする傾向が弱まっています。しかし、社会に目を向け、異論や多様性を認め合い、一つ一つの問題の解決や克服に向けて、民主主義を擁護していこうとする動きもあります。

そういう状況のなかで、学校教育(そして社会科教育)は何ができるか、何をすべきなのかを考えていきたい。

ひと工夫を入れて思考力を培いたい

学習指導要領のもとでも、私の問題意識にもとづき、ひと工夫を入れて思考力を培いたいと思います。ひと工夫は、中心発問となり、小集団の話し合い活動をさせることにつながります。また、ワークシートにも反映されます。

◇北アメリカ州学習の授業構成とひと工夫…次の表にまとめてみました。

 

時限

 

 テーマ

★ひと工夫

 

☆ひと工夫のための主な教材

主な学習内容

 

 

 1

 

 

北アメリカ州の自然環境

★導入…「アメリカ」と聞いて連想することは?→付箋に書く→班でグルーピング

 

 

☆付箋、A3の紙

 

 

 

 

・地形、地名、気候、雨温図など

 

 

 

 2

 

 

 

移民の歴史と多様な民族構成

★星条旗の変遷

★個人写真と民族の結びつけ

★トランプ大統領の移民政策

 

 

3種類の星条旗

☆テイラー・スウィフト、ネイサン・チェンなど

☆ニュース映像

・先住民族と移民、移民の歴史と文化、人種・民族構成の円グラフなど

 

 3

 

 

 

 

北アメリカの農業

★日本の食料自給率の低下

★日本の飼料の多くをアメリカの巨大企業から輸入。その影響を考えさせる。

 

 

☆穀物メジャーの例(カーギルを紹介)

☆飼料として、トウモロコシと大豆に着目させる

 

・農業の特徴…大規模、適地適作、世界の食料庫

・アグリビジネス企業…穀物メジャーの影響

 

 

 4

 

 

 

 

アメリカ合衆国の工業

★世界の大企業トップ10

★武器の売上高トップ10

★米中貿易戦争の背景は?

 

 

 

☆アメリカの貿易収支の変化がわかるグラフ

☆米中貿易戦争を伝える記事

 

・工業の歴史

・主な工業地域

・先端技術産業

・資源…シェールガスなど

 

 

 5

 

 

 

 

世界に広がるアメリカ合衆国の影響

★【自動車クイズ】…開発の歴史

★ハンバーガーに着目させる

Q.なぜ外国から材料を仕入れているのか?

Q.国産の材料を使わないことで、どんな影響が出ているのか?

NHKforschoolの映像

 

☆スーパーのチラシ…国産とオーストラリア産の牛肉価格の比較

 

・車社会、多国籍企業→広がる文化とその影響

(比較的知識量が少なく、ひと工夫しやすいページ)

 

 

《第3時;北アメリカの農業》を少し紹介します。 

↳導入のクイズで、「穀物」や「大豆」に着目させました。後半の【考えてみよう】の前振りです。 

↳穀物メジャーの簡単な解説をしました(例;カーギルがいかに巨大か)。 

↳【考えてみよう】のために、次のような資料を提示しました。 

・日本の食料自給率の変化を示すグラフ…低下している 

・日本の畜産農家や養鶏農家の購入している飼料の多くは輸入物ということに着目させる 

・輸入飼料とは…トウモロコシ・大豆 

・トウモロコシ・大豆…70%以上がアメリカからの輸入 

 

そういう点を押さえたうえで、次の2つの発問をしました 

Q.アメリカ合衆国の農業生産や穀物メジャーは、日本の畜産農家や消費者にどのような影響をおよぼすだろうか?→ねらい;飼料の多くを輸入に頼っている現状に対して、問題意識を持たせたい。 

・半分くらいの生徒が問題があると気づき始めている 

「アメリカ側で何かの問題が起きた場合、日本への輸入が困難になったり、輸入ができなくなったりして、日本の農家や消費者の生活が不便になったり、家畜へ与える餌が減ると思う。」 

「日本の農家はアメリカの輸入物に頼りきっている状態だから、もしアメリカで飼料の栽培ができなくなったら、必然的に日本の畜産もとまって、お肉が食べられなくなるかも。」 

Q.あなたは農林水産省に勤めていて、日本の農業政策を考える仕事をしているとします。日本の畜産農家が安定した収入を得られるようにするためにはどんな政策を考えたらいいと思いますか?→ねらい;大きな視点から、日本の農業のあり方を考えさせたいと思い、政策の立案や執行にたずさわる立場に立たせてみようとした発問。多角的に考えようとするトレーニングでもある。中1には難しい発問とわかった上で問いかけてみた。ただし、班での話し合いの結果、意見を書いている生徒もいるので、その影響を受けて書いている生徒もいる。 

・おおむね期待した意見が書けた(記述内容より「立場に立つ」ことに重きを置いた評価)1/3強か 

「外国からの輸入に制限をつくる(今年はxトンまでなど)。日本のものを食べるようにポスターをつくる。地産地消を自分がする。」 

「農家になると優遇される→サービス的なもの。JAなどに投資(寄付)。農家への基金箱設置。SNSでの基金は返礼品が送られる。」 

・発問の意図がつかめていないもの(子どもっぽく面白いが)…1/3くらいか 

「農業体験する」「輸入を少なくして自分たちで育てて消費する」「牛を飼育している人は、トウモロコシを育てればいいと思う」「自分たちでとうもろこしなどをつくってあげたりして、安定した収入をえられるようにする」「駅まえでティッシュをくばる」 

・ほとんど書けていない…1/3弱か

「ひと工夫」で授業が変えられる

 

学習指導要領のもとでも、ワークシートや教材、展開や発問の工夫で、授業を変えることができます。どういう方向に向けて変えるのか、どういう点にポイントをおこうとするのか。そのためには、具体的にはその授業でのワークシートや教材、展開や発問などに、どういう工夫をすればよいのか。そこが社会科教師として力量の問われるところだと思います。

歴史総合を意識して世界史Aでの挑戦

大川沙織さん(立命館宇治中学校・高等学校)

現場の実情は?

高校社会科が改変され、2022年度から「歴史総合」「地理総合」「公共」が必修科目になります。そうした動向を受けて、考える世界史の授業のあり方を模索する動きも出てきていますが、これにはジェネレーションギャップがあるような感じです。つまり、「まず深い知識があってこそ考えられる」とする懐疑的なベテラン教員がいる一方で、「どうやったら考える授業を組み立てられるのか、実践例を知りたい」とする積極的態度を示す若手教員もいます。

講義1時間・班活動1時間

前任校・府立西城陽高校での実践です。この実践は、昨年度の2年生のGSGlobal Study)コースのクラスで世界史Aとして取り組んだ報告です。

まず授業の基本形態は、パワーポイントを使って講義で1時間、次に問いに対する回答を考える班活動で1時間としました。講義では、教科書の図や資料集を多用して、地図や物を見せたり地理的な空間を把握させように留意しました。問いについては、最初は「大きな問い」「小さな問い」と分けて問いかけましたが、途中から問いの大小の区別はなくしました。

その問いの作り方としては、「大きな問い」は、歴史の大きな枠組みを考えることができるものとして作成しました。「小さな問い」は、ある歴史的事象の理解をさらに深めるために問うというものです。

各テーマの2時間目で班活動を行いました。司会・発表・書記・タイムキーパーを毎回決めさせて始めました。問いに対する回答は、ホワイトボードシートに書かせ、黒板に貼らせました。このやり方は、タブレットで班の意見をまとめたプリントを写真にとりスクリーンへ映し出す方法へシフトしていきました。各班の発表担当者が前に出てきて自分の班の考えを説明しました。議論用紙には、自分の意見を書くところと班の意見を書くところを設けました。

生徒の学習活動を見ていますと、できることと難しいこと・訓練を要することがあって、見えてきました。たとえば、できることとしては、教科書や資料集をベースにして答えることができます。また史料を教員と一緒に読解することもできます。これに対し、難しいこと・訓練を要することは、たとえば質問にどの程度まで答えたらいいのか分からないとか、質問の意味が分からないとか、教科書や資料の読み取りができないといった場面がありました。

授業内容・質問・史資料*の一部を紹介します(数字は何番目の授業かを示す)。

⑮ルネサンス 

  Q.ルターは何を批判しているのだろうか? 

*『95か条の論題』5202143条より 

⑱アメリカ独立戦争 

  Q.北アメリカに入植したヨーロッパ人とアメリカ先住民はどのような関係だったのか? 

  Q.イギリスから独立したアメリカではどのような政治が行われたのか? 

  *ウィリアム・ペン『先住民への書簡』 

  *エドワード・ウオーターハウス『ヴァージニア植民地事情についての供出』 

  *「アメリカ合衆国憲法」 

㉔アメリカ南北戦争 

  Q.南北戦争を経て、アメリカ社会はどのような変化があったのだろうか? 

  *「奴隷解放宣言」「奴隷解放宣言に対するイリノイ州議会の反対決議」 

㉖ムガル帝国の崩壊と東南アジアの植民地化 

  Q.植民地支配下のインド・東南アジアではどのような抵抗運動がおこったのだろうか? 

  Q.ドンズー運動はどのような運動か?運動の結末はどうなったのか?運動の意義は何か? 

  *「ファン・ボイ・チャウの小村寿太郎外相宛の手紙1902年」 

  *『南越義列史』グエン・ドゥク・コン伝 

㉗アヘン戦争~日清戦争 

㉘日清戦争後~辛亥革命 

  Q.清と日本はどのような近代化を目指したのか?(共通点、相違点)…㉗㉘共通の問い 

  *「両広総督張之洞の上奏文」「漢陽鉄廠官督商辦章程」

成績評価について

問いに対する回答、ノート、平常点で30%。期末テスト3回で70%としました。期末テストは、基礎的な知識を問う問題が大半で、記述式の部分も授業中に勉強したこととほぼ同じ問題を出しました。また、テストではリード文が難しいと基本的知識を問う箇所も正答率が下がる傾向が見られましたし、記述式のところがあまり書けませんでした。

生徒たちはどう感じているのか

1学期、2学期の終了時にアンケートをとりました。

授業での問いの難易度について聞いた回答では、12学期とも7割くらいの生徒が難しいと感じていました。また、考えや意見を書くことについて聞くと、「良い」と「どちらかといえば良い」を合わせると半数を超す生徒が肯定的な評価をしていました。「どちらかといえば良い」と答えたある生徒は、「自分の意見を言って他人の意見を聞いて納得できるから」「いろんな人の意見を聞くことができるから」というふうにその理由を答えてくれました。